毎年恒例になりつつあるラトヴィア・リトアニア買い付けの旅から帰ってすぐ、我が家に新しい家族が増えました。
ミル坊とそっくりのキジシロ模様の“ココア”という名前の男の子です。
葉山の空き家の一軒家に住み着いた野良猫母さんが家のなかで子育てをしていたらしく、家族揃って保護されたのでした。保護してくれたHさんのおうちにお邪魔したとき、時を同じくして保護されたもうひと家族もいて、総勢オトナ2匹、こども7匹のなんとも賑やかな猫世界。
母乳で育ち、遊び仲間もたくさんいるココアは栄養満点、元気に大きくなってくれそうだなぁと私たちは期待を込めて思いました。
後日、Hさんご夫婦がココアを我が家に連れてきてくれ、ゲージ越しにミル坊と初対面の時、ココアは小さな身体を大きく見せながら威嚇をしました。それを受けて、ミル坊は私たちが聞いたことがないような低い声でウーーーーと唸り、威嚇返し。
しばらくはゲージ暮らしのココアは、お猿さんのように柵のなかで縦横無人に暴れながら「だせーだせーだせー」の奇声を上げました。声が枯れても、叫びつづけています。
もともと穏やかな性格のミル坊も、私たち夫婦もはじめての体験で、ココアの鳴き声に胸がざわざわして不安になり、こちらも同じく泣きそうになりました。数日はゲージにいれて目隠しをして場所に慣れさせてくださいね、とアドバイスをもらいましたが、心が落ち着かず、いてもたってもいられません。
しまいには、ミル坊の声までしゃがれて、いつもの鈴が鳴るような可愛い高音の鳴き声が、年老いた山羊さんの鳴き声のようになってしまいました。便秘もして、尻尾はいつも下を向いて、いっきに年を取ってしまったような姿に、私は涙が出ました。
ミル坊がこんな姿になるなら、私たちの選択は間違いだったのかもしれない。
自分のことならいくらでも何でも耐えられるのに、物言わぬ猫のくるしみに何もできない苦しさ、不甲斐なさ、胸がぎゅっと締め付けられる辛さでした。
それでも、ミル坊のようすをみて「以前と変わらない日々が続くんだよ、なんにも心配ないんだよ」と話しかけながら、なるべく変わらない態度で日々を送りました。
ミル坊が二階で休んでいるときには、ココアを抱っこして、「ここは安心できる場所だよ、ミル坊は優しいお兄さんだよ」と声をかけました。
ココアがきて6日目は休日。
ふたりのようすをずっと見ていられるので、ココアをゲージから放ち自由に。ふたりと同じ部屋で過ごしてみました。
ぎこちないふたりは、少しずつ近づいては、ぱっと離れたりを繰り返します。
ミル坊はココアと同じように2ヶ月までママと一緒に野良生活をしていたけれど、我が家に来た時はとにかく怖がりで、少しずつ少しずつ部屋を開拓して、一度こわい思いをするとしばらくは近づきもしない慎重なタイプ。
一方のココアはこわいものなしのチャレンジャー。高い場所にすぐ登ろうとして、失敗して落ちて体を打っても、次の瞬間にはまた飛び上がる、何回でも飛び上がる。
その様子を見ていると、性格って生まれながらのものなんだなぁと思います。
好奇心旺盛、家じゅうの何もかもに興味津々のココアは“ガリガリサークル”に惹かれたらしく、さっそく中に入ってまだ研ぐ必要がなさそうな小さな小さな爪をりっぱにガリガリして、爪磨きをしました。
ふとみると、ガリガリサークルにミル坊も入って、ぎゅうぎゅうになりながら、ココアをアロ・グルーミングしています。
つい数日前までの絶望感からは考えられない目を疑う光景。
ミル坊がココアを受け入れてくれたのです。
もともとママだいすきで甘えん坊のココアは、身体中を優しく舐めてもらいゴロゴロ喉らして、目を細めて幸せそう。
そのとき、猫ってすごいなって尊敬の気持ちが湧いてきました。
人間でも環境がかわること、家族が増えることには大きなストレスがかかります。
まして体も小さく、家での生活がすべて、家族がすべてのミル坊が小さなココアを受け入れるには、どれだけの勇気がいることでしょう。
猫は愛の生き物。愛を伝えるために生まれてきた、そんな気がしました。
人間ふたりと、猫にひき。
家族は四人になりました。
これから、賑やかな日常がはじまります。