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about “MILK”

Diary

わたしの家には、ミルクという名前の猫がいます。
ミルクが我が家にきたのは、2015年6月。ちょうどその年の頭に、鎌倉の山あいの小さな一軒家に越し、リノベーションしてるなかで、具体的な予定は何もないけれど、なんとなく猫と暮らすことを設定して、天井をぶち抜きハリを出したり、おトイレの場所を想像したりしていました。
そんな妄想のきっかけは、懇意にしているミュージシャンの山田稔明さんのポチの存在がありました。
山田さんが2014年に「ひなたのねこ」という写真絵本をミルブックスさんから出版し、その巡回展を秋にmolnでも予定していたのですが、信じられないことにその年の夏、ポチが帰らぬ猫さんになってしまいました。
ポチの可愛さをただただ愛でる展示だったはずの「ひなたのねこ」展はとても切なく、でもその眼差しは生死を超えて深くあたたかくて、わたしはお店番をしながら、何度も密かに涙を流してしまったのです。
その体験を通して、わたしにとっての猫はただの猫ではなく、尊くて誇り高い生き物の象徴のように心に宿り始めました。
仲良くしているすみっこサロンのちもちゃんが、その当時向ヶ丘遊園に住んでいて、春先の発情期を経て、仔猫が町に溢れる5月に、
「あやくん、仔猫飼ってみない?」
と声をかけてくれました。
聞けば、ちもちゃんの住むご近所は、東京に似合わずたくさんの野良猫さんがいて、地域の人たちがみんなで協力してお世話をしている地域猫として、幸せに暮らしているようすなのでした。
ちもちゃんのお家にも、“きなこ“という猫さんがしょっちゅう出入りしていて、妊婦のちもちゃんを心配しているかのような素振りは、もはや猫さんを通り越した親戚のようで、その話をきいていると楽しくて、いつも驚かされていました。
わたしと夫は、もう半分以上猫と暮らすことを心に決めて、ある休日に向ヶ丘遊園に向かいました。
途中、乗り換え駅の藤沢駅の「こぐま」で牛乳ラーメンをたべているあいだも、2cmくらい足元が宙に浮いている気持ちでした。
向ヶ丘遊園駅からすこし歩くと、猫マスターのちもちゃんは、あちこちに仔猫ちゃんがいる場所を把握していて、
シーと人差し指を口にあてて、私たちにその愛おしい仔猫とお母さんのいる住処を教えてくれました。
ちもちゃんの当時住んでいたエリアは、昔ながらの平屋が残っていて、ご近所の東北なまりのおばあちゃんが、その日の朝、私たちがくることを知り、スペシャルな技術を駆使し、仔猫ちゃんたちを保護してくれていたのでした。
おばあちゃんはすごい東北なまりで90パーセントくらい何をいっているのかわからなかったけれど、頂いたフルーツゼリーは甘く美味しく、仔猫やお母さんたちのごはんをお世話しながら、もう何回も出産を繰り返す仔猫のママさんの心配をして、避妊をするためにママさんも保護していました。
おばあちゃんのいえに保護された仔猫は4匹。
ジョーカーみたいな右左対称模様の2匹と、黒白ちゃん。
そして3匹が大騒ぎのなか、お構いなしに堂々と眠っているハチワレちゃん。
わたしと夫はひとめみて、このハチワレちゃんを気に入ってしまいました。
あともう1匹とすすめられたけれど、申し訳ないことに、猫と暮らしたことがない私たちにはいきなり多頭飼いの勇気がなく、この子だけと心に決めたのでした。
(その後、黒白ちゃんはちもちゃんの親戚のおうちに、ジョーカーちゃんは地域猫の活動をしている方の元に旅立ったそうです。)
もう一人平屋の住人に、Kさんというマダムがいました。その方のお家には10匹くらいの猫さん、そして家には入ってこない通い猫さんも無数にいて、まさに猫おばさま!なマダムなのでした。
猫さんたちは、障害があったり、まがりなりにも美形な猫さんとはいえない、簡単に飼い主がみつからない猫さんたちを積極的に家族にしているそうなのでした。
しかし猫さんたちの性格は信じられないくらい人なつっこく、私たちの後ろをずーっと付いて回るような純粋さをまっすぐにもった猫さんたちで、私と夫は猫さんの固定概念を完全にひっくり返されたのでした。
夫にはドンキという名前の、顔がやっさんみたいだけど、従順で優しい猫さんがずっとひっついて、指を舐められていました。笑笑
Kさんは結婚相談所の仲人さんのお仕事をしていて、占い師のごとく、「あなた(わたし)が男ね!」といっしゅん顔相をみて言われたのも衝撃的でした!
その帰りみち、私たちはその猫を“ミルク”と名付けました。お昼ごはんの、牛乳ラーメンにちなんで。
数日後に、ちもちゃんとひーさん(ちもちゃんの旦那さま)の車に乗せられ、途中ちいさなうんちをしたミルクが我が家にやってきました。
怯えたイカ耳で我が家に着くやいなやソファの下に籠城し、すこし近づくと威嚇のちいさなシャーをしつつ、あたたかさに包まれると、なにもかもに満たされたように喉をならしながら眠り、私たちの腕のなかでちいさな夢を見るミルクは、きたその日に、私たちの宝ものになりました。

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